「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」の最終提言v1.0(以下TNFD提言)が、ニューヨークで開催されたクライメート・ウィークにて発表されました。同発表は政策決定者、気候アクティビスト、市民社会の代表者や各国企業の代表者などイベント参加者に共有されたほか、ウェビナーは3,000人を超える参加者が視聴しました。今回200以上の企業と金融機関によるパイロットテストを含む2年間の開発期間を経て完成したTNFD提言とは、「自然リスク」を、金融や事業、気候変動のリスクと並列に位置づけ、資本の流れを自然にポジティブな結果へとシフトさせることを意図して開発されたものです。また、既存や開発中のものを含むIFRS財団の「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)」の基準や「GRIスタンダード」、そして「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の要求と整合させているのが特徴です。すでに同最終提言の導入をコミットする企業の宣言も発表され、あとに続く企業が一層増えることが期待されています。今夏にTNFDが行った調査(35か国、11セクターにまたがる239団体が回答)によると、回答者の70%以上はFY25を目安に「TNFD提言に沿った情報開示をすることができる」と回答し、86%の回答者はFY26 までに情報開示できるとしています。

 TNFD提言は自主的な開示枠組みですが、なぜこのように世界レベルで多くの企業・金融機関が自然関連財務情報開示の重要性を認識し、開示準備を進めているのでしょうか。

 一つの理由としては、同枠組みの内容が法令や基準に組み込まれている点です。例えば早ければ2025年の初めから報告が求められる欧州のCSRD(企業サステナビリティ報告指令)ではTNFDで推奨されている多くの開示事項における観点が含まれており、TNFD提言と整合しています。CSRDに沿った精度の高い情報開示を行うためには、TNFDが推奨する要求事項と同レベルの評価・分析、戦略や目標策定などの取組みが必要となります。また、TNFD対応は、生物多様性関連、水といったCSRDにおける関連するテーマをカバーしており分野横断的な戦略や情報開示が進められるというメリットもあります。

 二つ目は、ESG投資の潮流におけるTNFD提言に基づく開示の重要性です。世界で18,700社以上(2022年)の企業データを扱うCDPは、開示プラットフォームとTNFD提言を整合させることを発表しています。こういった流れから、世界経済においてTNFD提言の導入が加速し、企業による自然関連の情報開示が着実に義務化の方向に向かうとの見方もあります。

 このような情報開示への対応という理由のほかに、TNFD対応が事業メリットにつながることを実感している企業もいます。例えばTNFD提言のリスク分析アプローチLEAPのリスク・機会特定プロセスの事例では、リスクを定量化し財務面での影響を理解したことで事業リスク対策を検討した企業の事例を紹介しています。サプライチェーン上流で多くのコスト増や上流サプライチェーンの分断といった自然関連の物理リスクを特定し、自然リスクシナリオに照らし将来的な事業収益への影響を検証したことで、サプライチェーンに幅広く適用可能な対応策の知見が得られたとしています。

 一方で報告作業の合理化の観点からの工夫も見られます。TNFD提言はTCFDの枠組みと整合するように開発されており、共通の開示項目があります。TNFDフォーラムで紹介されている、オーストラリア・タスマニア最大の森林をメインに私有地管理をしている会社であるForico社が発行した、TCFDとTNFDを統合させたレポートのように、気候と自然関連の情報を併せて開示をすることも可能です。

 ERMでは、TNFDの枠組みに沿った情報開示や、自然関連のリスク・機会アプローチ「LEAP(発見・診断・分析・準備)」に基づく評価・分析を支援しています。自然に関連して、生態系、地質、海洋、大気など環境分野のほか、市民社会・コミュニティのエンゲージメントなどさまざまな専門グループがあり、それぞれの立場から専門的知見を提供することができます。LEAPの評価においては表面的な結果の解釈にとどまらず、専門的な観点から、例えば「自然ベースの解決策(NbS)」や「自然気候ソリューション(NCS)」といった解決策の提供を踏まえて分析した視点を共有し、事業機会の開拓や戦略策定の手助けを行っています。サプライヤーの上流におけるステークホルダーエンゲージメントやコミュニティ開発分野でのも世界各国のERM拠点を通じて支援することができます。今後ますます、世界でも自然関連財務情報開示への取組みが期待されていきます。是非、ERMとともに自然にプラスとなる目標に向けて情報開示に取り組みませんか。

 ダウンロードはこちら