電力部門の脱炭素化を進めるべく、FIT制度(固定価格買取制度)やFIP制度(フィードインプレミアム)により再生可能エネルギーの拡大が後押しされてきました。また、電力市場自由化の進展に伴い、非効率火力発電所の休廃止が進んでいます。これら電力市場を取り巻く環境変化により、以下の課題が顕在化しています。
- 再生可能エネルギーの発電量の変動が拡大し、需要量とのバランス維持の難易度が上昇
- CO2を排出する火力発電所などへの新規投資が停滞しており、電力供給量が低下
これら課題解決のために、中長期的な観点から電力安定供給上のリスクや価格高騰リスクを抑制しながら、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて需要家に対して脱炭素電源の供給力価値提供を実現する為に、発電時や電力供給の際にCO2を出さない脱炭素電源を対象とした長期脱炭素電源オークションが、容量市場の一部として2023年度から開始されます。
長期脱炭素電源オークションへの参加対象電源は、再生可能エネルギー・原子力発電・蓄電池などの脱炭素電源であり、蓄電池以外は新設及びリプレース案件が対象となります。尚、水素やアンモニアを混焼する設備や、バイオマスを専焼する設備への改修であれば、火力発電もオークションへの参加が可能です。オークションへの参加には、電源種別毎に最低入札容量が定められており、再生可能エネルギーや揚水発電、既存火力発電のバイオマス専焼への改修では10万kW、既存火力を水素やアンモニア混焼へ改修する場合は5万kWです。尚、蓄電池については1万kWから入札が可能です。容量市場が1つの価格で約定されるシングルプライスオークションに対して、長期脱炭素電源オークションは参加電源毎の応札価格が約定価格となるマルチプライス方式です。
2023年度の脱炭素電源オークションでは、400万kWが募集されます。募集容量は、電源種別毎に上限が定められており、既存火力の改修案件(水素、アンモニア混焼およびバイオマス専焼)および蓄電池・揚水発電はそれぞれ100万kWです。尚、火力発電所の休廃止増加を背景として発生した2022年3月の東日本における電力需給ひっ迫を踏まえ、短期的な電力需給ひっ迫防止を目的に、比較的短期間で建設が可能なLNG火力の新設・リプレース案件についても一定期間内に限り対象とし、脱炭素電源とは別に、2023~2025年度の3年間で600万kWが募集されます。既存火力の改修案件およびLNG案件については、応札時に対象電源の2050年に向けた脱炭素化へのロードマップの提出が求められ、広域的電力運営機関のホームパージにおいて公表されます。ロードマップは適時のアップデートと、必要に応じて資源エネルギー庁の審議会などの場で説明が求められます。その上で、合理的な理由なく脱炭素化に向けた取組を行っていないと判断された場合は、重大な違反行為に該当するとして契約が解除される場合があります。
長期脱炭素電源オークションは容量市場の一部として開設されますが、通常の容量市場の容量収入期間が1年間であるのに対して、長期脱炭素電源オークションの落札電源は、固定費水準を原則20年間、容量収入として得ることができます。これは巨額の初期投資が必要となる脱炭素電源に対して、長期的な収入の予見性を付与するものであり、今後より一層の脱炭素電源の拡大と、廉価な電力安定供給の両立が期待されます。尚、発電事業者などが得る容量収入は、小売電気事業者などが負担する容量拠出金から支払われます。小売電気事業者などの負担は需要家により支えられるため、結果的に電気料金を通じて社会全体で電力部門の脱炭素に協力する制度といえます。
ERMでは、中長期脱炭素戦略策定や、電力市場を活用した電力調達最適化並びにバーチャルパワープラント事業導入に関するサポートをご提供しています。
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