日本国内では2023年1月に「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の一部を改正する内閣府令が施行され、有価証券報告書において、サステナビリティ関連の取り組みについて情報を開示するための独立した記載欄を設けることが義務付けられました。この改正の背景としては、米国証券取引委員会(SEC)における気候関連情報開示に関する規則案の整理、EUにおける企業サステナビリティ報告指令(CSRD)・欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の整備など、企業経営及び投資家の投資判断等においてサステナビリティ関連の情報を含む非財務情報の重要性が世界レベルで高まってきていることが一因として挙げられます。現時点における日本国内でのサステナビリティ関連の情報開示が求められる項目としては、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言の枠組みに合わせ「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」及び「指標及び目標」の大項目が設定されていますが、その具体的な開示要件については引き続き検討が行われており、「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)」等の国際的な枠組みにおける議論を踏まえ、今後詳細に設定されていく見込みとされております。今回の法改正は、金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループによる2022年6月の報告書をベースとして行われており、同報告書によるとサステナビリティ関連の情報開示については、有価証券報告書以外の事業者による任意開示等においても、企業の創意工夫を生かした情報開示が促進されることが期待されており、今後、企業経営や企業価値の評価指標としてのサステナビリティ関連の情報の重要性がさらに増していくことが示唆されております。また、国際的な枠組みを踏まえて「戦略」や「指標と目標」項目の開示厳格化も想定されます。そのため、M&Aにおけるデューデリジェンスにおいてもこれらの情報が主要調査項目の一つとしてさらに重要視されていく可能性が考えられます。
今回の法改正では、サステナビリティを含む環境・社会、ガバナンスとして括られているESG項目として、女性管理職比率、男性育児休業取得率及び男女間賃金格差を含む従業員の状況についての情報開示、サステナビリティに関する企業の考え方及び取り組みについての情報開示、取締役会等の活動状況などを含むコーポレート・ガバナンス状況の情報開示が新規に盛り込まれています。これらのうち環境整備・人材育成に係る企業方針、それらのモニタリング指標の実績値、また従業員状況等の各種数値データ、並びにサステナビリティ関連における温室効果ガス(GHG)の排出量の削減目標・実績値等については、ある程度他企業との比較の観点からも整理されており、M&Aにおいても海外企業を主体にデューデリジェンスの評価項目としてすでに設定が進んでいる状況も見受けられます。これは先述したCSRDにおいて環境、社会、従業員の事項、人権の尊重、腐敗防止、贈収賄防止事項、及びガバナンスの事項の報告が含められていることや、米国のSECや英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)など、主要国における各種枠組みにおいてTCFDに沿った情報開示が企業側に求められていることと連動した流れでもあると考えられます。
日本国内の議論においても、投資家・アナリストが期待する関連情報の開示ポイントとして、財務的な要素を含めた情報開示を行うこと、リスク管理に関する開示では一覧表で定量的な情報を含めた開示、 トランジションやロードマップといった時間軸を持った情報開示、前提や仮定を含めてのサステナビリ ティ情報に関する開示、また実績値を開示していくことなどは有用とされており、これらの観点は評価 項目としてある程度特定されており、企業側としても企業アピールの情報として整理を進めていくことが有用と考えられています。
一方で、現時点では国際的な枠組みの整備が進められている段階であり、また各企業において開示している情報項目の重要性については、経営環境等を含む企業ごとに抱える課題、優先度の差異によりその 濃淡が変化しうることから、M&Aにおいては得られた情報の評価の難しさが見受けられます。
ERMでは、代表的な投資機関や事業会社のアドバイザーとして、幅広いセクターや国・地域を対象としたM&A案件支援において実績があります。企業情報の開示をめぐる各国・地域やマーケットの動向を踏まえ、デューディリジェンスのスコープへの組み込みも対応しております。クローズ後のインテグレーションを見据えて初期的な評価を行うとともに、本格的な開示準備支援に向けて円滑に移行できます。欧州はじめ世界各国のERM拠点で有する実績・知見を活用して、最新動向を踏まえたワンストップでのM&A サービスを提供しております。