2023年11月30日、気候変動を巡る多くのテーマが集中的に議論されるCOP28がドバイで始まります[i]。COP28では、2021年のCOP26に引き続き、パリ協定の下の国際排出権取引の仕組み作りに注目が集まろうとしており、今回のニュースレターでは、制度化が進む国際排出権取引の議論をわかりにくくしている点の一つ、「相当調整(corresponding adjustment=CA”)に注目して取り上げます。

 2015年に採択されたパリ協定下の排出権取引では、欧州、中国、韓国、オーストラリアなどの国や地域ごとの制度や2024年からは空運や海運のセクター別の制度が動き始め、分散型の制度作りが進んでいます(国・地域・セクター別コンプライアンス市場)。ただし、現在一番取引が活発なのは民間企業によるボランタリークレジットの取引であり、2021年には全世界の排出権取引に占める割合は約75%、3.5億CO2tとなったと報告されています(ボランタリー市場)。ボランタリー市場の議論の中心は「ネットゼロを目指す民間企業によるボランタリークレジットの質の高いクレジットを活用しているか」や「クレジットの活用の前にGHG削減に向けた自助努力が十分になされているのか」などです。

 今後更なる排出権市場の活用を拡大する議論として注目されているのは、パリ協定で排出権取引を規定する第6条で定義されている仕組み、①海外で実現した排出削減・吸収量を各国の削減目標の達成への活用(6条2項)、②過去国際排出権取引や途上国で多く実施されたクリーン開発メカニズム(CDM)の後継メカニズム(6条4項)の二つの仕組みとなります。企業が投資家などから求められるネットゼロに向けた高いコミットメントおよび実際の削減への取り組みを求められる中、ボランタリークレジットの活用は多くの国において排出削減や持続的な発展に貢献しているものの、国が排出削減目標の達成に利用できるようにする6条のメカニズムは国際的な資金還流の拡大を実現するため起爆剤となると考えられます。

 これからの6条の枠組み作りの中でも大きな論点の一つは、削減活動を通じた国際移転可能な成果(Internationally Transferred Mitigation Outcomes =”ITMOs”)の分配を規定する「相当調整(Corresponding Adjustment=”CA”)」です。相当調整とはクレジットを獲得する国がクレジットを売却する国とそれぞれの貢献度などによって分ける仕組みで、ITMOsの二重計上を回避するために必要不可欠の仕組みですが、国ごとの削減目標に沿った適用について合意することが求められます。6条メカニズムで規定されようとしている相当調整という考え方は、実は類似の仕組みはすでに京都議定書下で共同実施(Joint Implementation=”JI”)の中でとして制度化されていました。JIの場合は、それぞれの国・参加者が技術やノウハウ、資金などの得意分野を相互補完的に協力し合い、地球温暖化対策の事業を行い、その結果としての削減量を当該事業の投資国と事業受け入れ国で分けることができる制度として設計されました。

 削減活動の成果を分配する仕組みは、CDMにおける途上国が削減義務を負っていなかったことから制度化はされておらず、上記のように制度に組み込まれていたJIでも、削減活動実施国の多くが経済規模が縮小し排出削減目標達成に大きく問題がなかったロシア・東欧諸国で実施されたこともあり、海外へのクレジットの分配には何も抵抗はありませんでした。その点パリ協定下ではすべての先進国と途上国が共通の削減目標を目指す枠組みとなり、すべての国にとって削減成果(ITMO)は貴重な財産となり、分配の考え方やその価値の妥当性に関する議論は国ごとの削減目標達成に大きく影響を与えます。今後の議論では、相当調整の報告やレビューなどの仕組みが少しずつ構築されていきますが、日本および日本企業にとっては、資金提供とともに技術やノウハウがどのように排出削減活動に寄与するかを考え、その削減によって得られた価値を最大化することは中長期的なネットゼロ戦略の柱に据えていくことが求められていくと考えます。

 

カーボンマーケットにかかる包括的なサービスを提供するERM Carbon Market Service

 分散型排出権市場ではカーボンクレジットの活用を検討する民間企業にはボランタリーとコンプライアンス市場双方の制度の活用を幅広く検討することが求められていきます。弊社は国際的なボランタリーなカーボンオフセット市場の案件開発、購入支援のみならず、国際排出権取引市場、欧州の排出権取引制度、これから導入される運輸業界の排出権取引制度、豪州などのコンプライアンス市場においてもグローバルネットワークを活用し、企業の脱炭素のお手伝いをさせていただいています。図1のように活用戦略、購入戦略、プロジェクト開発、そして保証、認証サービスの4分野において、ご支援を行っており、今、ダイナミックに動いているカーボンオフセットにおいても、皆様とご一緒させていただく機会を賜れるよう努めてまいります。

図1 ERM Carbon Market Serviceの概要

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[i] ERMによるCOP28にかかる情報発信(ERM at COP28